思い込むと危険な不登校対応の3つの常識

不登校について詳しく考えてみましょう。

私は臨床心理士としてスクールカウンセラーをしています。学校で一番多くのご相談を受けるのが「不登校」です。長期化することも多く、本人だけでなく、家族、友達、先生、全員が「どうしていいか分からない」と悩むことになります。

ここでは、スクールカウンセラーで浄土真宗の僧侶である私の立場から、「不登校」について考えていることをまとめてみようと思います。少しでもご参考になれば幸いです。

そもそも学校に行くべきなのか問題

これは最近では非常に大きなテーマになっています。オンラインでの学習環境も整ってきて、「そもそも学校いらないのでは」という声も少なくありません。最近ではYouTubeのなかに、勉強のできる動画も増えてきました。非常にクオリティが高いです。これが無料で見れるのだから、確かに自分一人で学習をすすめることが可能になりました。

私自身も寺子屋チャンネルというYouTubeをささやかながら運営しております。

さて、この「べき」論というのは、教育という分野においては非常に多く見られます。私はこれ自体が、無駄な議論だと考えています。どのテーマにおいても、「結局は人による」というオチになってしまいます。

学校に行かずに勉強できる人はそれでいいでしょう。学校に行かないと勉強が難しい人は学校に行った方がいいでしょう。学校に行って、苦しみ続けるくらいなら学校には行かなくていいでしょうし、勉強は嫌いだけど学校が楽しいなら学校に行けばいい。

問題は、「全員がこうするべき」という前提から目の前の子どもを見てしまうことです。全体のべき論に巻き込まれると、目の前の一人に対する最適解が見えなくなってしまいます。自分の中にあるべき論を自覚して、そこから離れたうえで、子どもと向き合ってみましょう。

今まで見えていなかった第三の選択肢がそこにはあるかもしれません。一人で見えないときは誰かと話をしてみましょう。スクールカウンセラーはそういう役割だと思っています。いつもと違う視点から問題を眺めた時に新たなきづきがあるでしょう。

どう声をかけていいか分からない問題

優しく見守る方がいいのか、それとも登校を促した方がいいのか。これも不登校にまつわる永遠のテーマの一つです。保護者も先生も悩むところです。「つらくて休んでいるんだから、登校を促してはいけない」といった主張もしばしば耳にしますが、私はこれ自体には反対です。

もちろんエネルギーが無くて、落ち込んでいる状態のときには、ゆっくり休むことを優先して、無理に登校を促す必要はないでしょう。しかしながら、「本人が動き出すのを待ちます。ひたすら待ちましょう」と1年も2年も一歩も動きが取れないこともあります。

こうした状況では、子どもはそれなりに元気になっているのに、周りの大人が誰も背中を押してくれないから、どうしていいか分からず結局うごけないのです。

誰しもが現状を打破するのは勇気がいるものです。子どもから動き出せたらもちろん素晴らしいことですが、それが難しい子もいるわけです。それなのに、周りの大人が何もしないというのは逃げでしかないでしょう。子どもたちの準備が整ったときには、「失敗しても大人が守ってあげるから」としっかりと約束して力ずよく背中を押してあげましょう。

声のかけ方というのは正解がありません。子どもと大人と状況と、常に正解は移り変わっていきます。その瞬間に何がベストなのかをみんなで考えるものです。これを言ったら大丈夫というのは危険なことが多いです。その言葉のリスクと、それをリカバリーできる言葉を常に探しておきましょう。

昼夜逆転は無理にでも直した方がいいか問題

学校に行かず、深夜までゲームをして、朝起きてこない。不登校になれば100%この状況になるといっては過言かもしれませんが、体感的には100%です。保護者としては、健康状態も気になるし、せめて生活リズムだけは整えてほしいとお感じでしょう。

どこに相談に行っても「まずは生活リズムを整えて、他のことはそれからです」といったアドバイスは多いと思います。

実は私はこれには反対です。もし自分だったらと想像してみてください。明日朝起きて、仕事や学校に行かなくてもいいのならどうしますか?私なら夜遅くまで自分の好きなことをして、朝は目覚ましをかけずにゆっくりと寝たいです。おそらく100%の人がそう思っていると思います。子どもが夜更かしして生活リズムが崩れるのは当然のことなのです。

そして、自分が夜更かしをしたときはどうお感じになりますか?私は楽しいです。ゆっくりできて休みにもなるし、ストレス解消にもなります。夜更かしは人間にとってまんざら悪いものではありません。

問題はタイミングです。学校復帰を目前にして、朝、決まった時間に起きようというタイミングでは生活リズムを整える準備が必要です。しかし、「まずは元気になってもらいたい」というタイミングでは思う存分夜更かしをしてもよいのではないでしょうか。ネットでしか話の出来ない友達もいるでしょう。ゲームに没頭することで誰よりも上手にプレイできるようになるかもしれません。楽しいことに時間を使うのは心の成長に必要なことです。

ひとつ注意がいると思うのは、夜更かししている時間が「つらい」と感じてしまう人もいます。寝ることができず、ネガティブな思考が頭をめぐっているという状況であれば、その夜の時間は大変長く苦しいものでしょう。夜更かしをすることと、眠れないというのは別の問題です。眠れないという状況では薬物療法を早めにお試しになるとよいかと思います。

心の成長は楽しい時間から生まれます。学校や友達の人間関係がつらいときに、もしかすると夜のゲームの中に楽しい人間関係があるのかもしれません。ぜひそういう可能性があるということを理解しながら、目の前の子どもの声に耳を傾けてみてください。